モデルロケットとは?

 モデルロケットとは、アマチュアの人が楽しめるロケットです。モデルロケットというとおもちゃのロケットのように聞こえますが、中には高度数km以上飛ぶものもあり、本物のロケットとあまり変わらないものもあります。モデルロケットの歴史は古く、アメリカで1958年にアメリカロケット協会(NAR)が誕生したのが始まりです。一方、日本ではモデルロケットがテロに使われるという懸念から普及しませんでしたが、1990年に日本モデルロケット協会が誕生し、日本でもモデルロケットがアマチュアの間で行われることになりました。しかし、日本では打ち上げる場所が少ないことや、法律の制限が厳しいことからあまり普及が進んでいません。
 モデルロケットが本物のロケットと違うのは、安全規則により、気体の主要部分が紙やプラスチックなどから成り、金属を主要部分に使わないこと、ロケットを飛ばす燃料として、規定されたものだけを使用すること、などがあります。モデルロケットは小型のものから大型のものまでありますが、小型のロケットなら数千円、中型以上のロケットでも数万円で買えるので、値段的にもアマチュアの人が楽しめるものです。以下、私がこれまでに作ったモデルロケットを紹介します。

AlphaⅢ
 アメリカのEstes社のロケットです。日本モデルロケット協会で行う講習の時に使用するロケットで、日本では誰もが最初に使用するロケットです。全長は31.2cm、重量は34g、使用するエンジンの直径は18mmでA型からC型までとなります。C型エンジンを使用したときは最大で高度335mまで上がります。ノズルとフィンはプラスチック、胴体部分は紙でできています。写真の左側は実物の外観、右側は内部構造を示しています。モデルロケットは回収用にパラシュートが取り付けられていて、これを開くために、エンジンに放出薬が備えられています。放出薬による熱を和らげるために、エンジンとパラシュートの間にはリカバリーワディングという紙が設けられています。リカバリーワディングは打ち上げ後は焦げてしまうので、打ち上げごとに新しいものを使います。



Initiator
 アメリカのAerotech社の中型モデルロケットです。全長は99cm、重さは400gです。Aerotech社の製品は日本の代理店である野村特殊工業を通じて購入することもできますし、Aerotech社から直接購入することもできます。これもノズルとフィンはプラスチックでできています。使用するエンジンの直径は29mmで、E型からG型までが使用できます。AlphaⅢと異なるのは、エンジンとパラシュートの間の緩衝材として、クーリングメッシュとガスバッフルを用いている点です。この場合、打ち上げごとに緩衝材を代える必要はありません。



Initiatorの打ち上げの様子(youtube)

Quick Siliver

 これはpublic missile社のロケットです。全長は138cm、重さは964gです。このロケットでは、エンジンとパラシュートの間に筒の軸方向に移動自在なピストンを介在させて放出薬の緩衝材としています。また、下の写真で私が右手で掴んでいる部分はペイロードを搭載することができる部分で、例えばGPSなどのフライトレコーダーや、無線機などを搭載することができます。なお、この写真はアメリカのブラックロック砂漠で行われたXPRSの打ち上げのときの写真です。I型エンジンを使って、高度約1500mまで上がりました。
2017年にブラックロック砂漠で打ち上げたときの詳細



G-Force
 initiatorと同じaerotech社のモデルロケットです。材質や構造はinitiatorと似ていますが、大きさが違います。全長は152cm、重さは907gと、initiatorより一回り大きいものとなっています。名前の通り、G型エンジン専用のロケットで、打ち上げ高度は約200m。initiatorの倍以上の重さなのでG型を使ってもあまり高くまで上がりません。initiatorより大きい分ペイロードを搭載することもできます。なお、下の写真は岩手県の安比高原で打ち上げた時の写真です。


G-forceの打ち上げの様子(youtube)


ロケットエンジン
 モデルロケットのエンジンは、主にアメリカのaerotech社が販売する固体エンジンを使用します。エンジンの型番はA8-3のように表記されます。最初のアルファベット(ここではA)はエンジンの全力積を表しており、A型エンジンの場合、全力積は2.5Ns以下となります。B型エンジンであれば全力積は2.5~5Ns、というようにアルファベットが大きくなるにつれて全力積は大きくなります。次の8という数字は平均ニュートン推力で、エンジンが噴射している間の平均的な推力を表します(単位はN)。全力積を平均ニュートン推力で割れば、エンジンの燃焼時間がわかります。全力積は2.5Nsで平均ニュートン推力が8Nの場合、エンジンの燃焼時間は、2.5/8=0.3125秒となります。ハイフンの後の数字は延時時間で、エンジンの噴射が終わった後、パラシュートを展開するための放出薬が点火されるまでの時間(延時薬の燃焼時間)を表します。A8-3と表記されるエンジンの場合、延時時間は3秒なので、エンジンの推進剤が燃焼した後3秒後に放出薬が点火されることになります。さらにG38-4FJのように最後に別のアルファベットが記載されることがあります。このFJとはエンジンの種類を表しており、エンジンから噴射される煙の色や推進力はエンジンの種類によって異なります。
 また、エンジンにはシングルユースとリローダブルの2種類があります。シングルユースエンジンは1回のみの使用で、基本的にエンジンをロケットに挿入するだけで使うことができます。リローダブルエンジンはエンジンケースの中に自分で火薬を入れるもので、エンジンケースは再利用できます。シングルユースエンジンは値段は高いですが、簡単に使うことができるので便利です。一方のリローダブルエンジンは同じエンジンケースを使えば費用はシングルユースエンジンより安くなります。大型のエンジンの場合、ほとんどリローダブルエンジンとなるので、ハイパワーロケットの打ち上げを目指すのであればリローダブルエンジンの使い方も覚えておくといいでしょう。

エンジンの型   全力積(Ns)
 A型  2.5以下
 B型  2.5~5
 C型  5~10
 D型  10~20
 E型  20~40
 F型  40~80
 G型  80~160
 H型  160~320
 I型  320~640



フライトレコーダー
 さて次は応用編ですが、ペイロード搭載部分があるロケットなら何か載せたいものです。一般的なのは、フライトレコーダーを載せることです。arduinoなどマイコンを使ってGPSや加速度などのデータを取るのもいいですが、設計が大変だし、大きくてロケットに搭載するのは多少困難です。一方、モデルロケット用のフライトレコーダーとしてスイッサイエンスから販売されているちょっとすごいロガーは、小型で、GPS、加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサ、気圧センサ、温度計が搭載されています。値段は23760円とちょっと高めですが、コンパクトで使いやすいのでお勧めです。電源のLiPo電池は別売りで、付属のGPSは感度が悪いので別のGPSを別途購入するのが良いでしょう。これらの部品は木材などの基板上にねじや接着剤などで固定し、ロケット内部に入れて、外からねじ止めします。特にハイパワーのロケットだとこのように固定しないと、ロケットの加速で部品が壊れてしまいます。フライトレコーダーの他にもビーコンを搭載して、それを受信機を使って発信源を特定するというのもあります。ハイパワーロケットの場合、落下地点がわからなくなることがあるので、ビーコンを搭載したいですが、アマチュア無線の資格が必要だし、ビーコンを自作するのはかなり難しいのでこれは難易度が高いです。ちょっとすごいロガーの使い方についてはこちらのリンクを参照してください。



宇宙まで到達したアマチュアロケット
 アマチュロケットは特にアメリカでは大規模に行われていて、過去には宇宙まで到達したロケットもあります。モデルロケットの到達高度の世界記録は、2004年5月17日にアメリカのCSXTというという民間チームが作ったGoFastというロケットで記録した高度115kmというのがあります。このロケットの長さは6.4m、直径は25.4cm、初期重量は20.4kg、使用エンジンはS型の一段式でした。このロケットは打ち上げから10.42秒後に最高速度5521km/hを記録し、高度100km(これ以上の高度が宇宙と定義される)を超えた後、打ち上げから158秒後に最高点の高度115kmに到達。その後パラシュートにより地上に落下しました。この打ち上げの詳細は以下のページに掲載されています。

GoFastの世界記録の詳細

GoFastは一段式ロケットですが、多段式ロケットの場合どうなるでしょうか?アメリカのTRIPOLI Rocketry Associationの記録によると、N型エンジンの二段式ロケットで、高度36kmまで到達したというのがあります。エンジンのアルファベットが1つ増えるとパワーは約2倍、到達高度も約2倍になるので、単純に計算すると、P型ロケットの二段式で、高度は36km×4=144km、つまり高度が100kmを超えることになります。実際にはエンジンを大きくすると機体の重量も増えるし、速度が上がると空気抵抗も増えるので、高度はもう少し低くなるでしょう。値段ですが、私が使用したI140W-14Aというシングルユースのエンジンは値段が48ドルでした。値段がトータルインパルスに比例すると考えると単純計算では、P型エンジンの値段は48×128=6144ドル。現在の為替(1ドル=113円)で計算するとP型エンジンの値段は約70万円となります。これを2個使うのでエンジン代は約140万円。さらに機体の費用を約100万円と見積もり、ロケットの輸送費や打ち上げる人の旅費などを考えると費用は300万~500万円と考えられます。個人ではかなりの値段ですが、この程度ならアマチュアの団体がクラウドファンディングなどでお金を集めて実行することも可能だと思います。

XPRSについて
日本でモデルロケットの打ち上げを行う場合、通常はG型エンジンまでしか使えません。一方アメリカでは、これより遙かにパワーの強いエンジンを使うことができます。私が参加しているのは、アメリカのaeropacという団体が主催しているXPRSという打ち上げ会で、毎年9月に開催されています。発射場はネバダ州のブラックロック砂漠の以下の地点で、周囲5kmは何もない平坦な砂漠です。一番近い町のファーンリーから150km、車で2時間ほどかかります。また、ガーラックという小さい集落も車で30分ほどのところにあります。XPRSの前には、日本の大学生が多く参加するARLISSという缶サットのイベントもあり、これも同じ場所で行われます。XPRSやARLISSの詳細については、aeropacのホームページを参照してください。

aeropacのホームページ



XPRSの参加者は50~100人ほど。アメリカ人が多いですが、外国から来ている人もいます。打ち上げの参加費が50ドルくらい、見学が10ドルくらいだったと思います。私は2016年から毎年参加しています。以下に過去のロケット打ち上げの結果を載せておきます。

XPRS2017の結果

XPRS2018の結果